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薬剤

在宅医療における不適切な処方2018年10月09日 

Onda M,et al.Identification and prevalence of adverse drug events caused by potentially inappropriate medication in homebound elderly patients: a retrospective study using a nationwide survey in Japan.BMJ Open. 2015 Aug 10;5(8):e007581.

この論文によると、日本で在宅医療を受けている高齢者4815人(平均82.7歳)を調査したところ、不適切な処方(PIM;Potentially Inappropriate medication)がされていたのが48.4%にものぼり、実際に薬剤有害事象(ADEs;adverse drug events)が起きていたのは8%だったそうです。

すなわち、2人に1人は不適切な処方がされ、そのうちの約1割に実害が生じていたのです。

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論文の表をみると、不適切な処方数と薬剤有害事象の数が圧倒的に多いのはベンゾジアゼピン系で、薬剤有害事象の比率が高いのは抗ヒスタミン薬(抗コリン薬)だと分かります。

特に日本では、ベンゾジアゼピン系の処方数が諸外国に比べて多く、それだけ有害事象も多く起きており、社会問題にもなっています。

他には、ジゴキシンスルピリド(ドグマチール®)、刺激性下剤の慢性使用H2ブロッカーにも注意が必要です。

このブログでもたびたび、これらの薬の問題を取り上げてきましたが、再度まとめてみます。

ベンゾジアゼピン系は、認知機能低下、せん妄誘発、筋弛緩作用により転倒→骨折のリスクがあがります。

抗コリン薬には、認知機能低下、せん妄、口腔乾燥、便秘などの副作用があります。

ジゴキシンは、ジギタリス中毒(嘔吐、食欲不振など)の原因となります。高齢者に使う場合は0.125mg/日以下にし、血中濃度は0.5~0.8ng/mLの低めで維持します。

スルピリド(ドグマチール®)は薬剤性パーキンソニズムの原因となります。高齢者に使う場合は50mg/日以下にします。

H2ブロッカーはせん妄を誘発します。

(投稿者:斉藤 揚三)

薬剤性パーキンソン2018年09月24日 

パーキンソン病は、中脳黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性の疾患です。

パーキンソン病の4大症状としては、振戦、筋固縮、無動、姿勢反射障害があります。

具体的な症状を上げると、「動作が遅くなった」、「声が小さくなった」、「表情が少なくなった」、「歩き方がふらふらする」、「転倒しやすくなった」、「歩幅が狭くなった(小刻み歩行)」、「歩行開始時に足が出にくい」、「手が震える」、「止まれず走り出すことがある」、「手足が固い」などです。

このようなパーキンソン病でみられる症状が、薬の副作用でも起こってしまう(薬剤性パーキンソニズムと呼ばれます)というのが今回の話です。薬剤性パーキンソニズムは特に高齢の女性に起こりやすいと言われています。

パーキンソニズムを起こす薬は様々ありますが、ドパミン拮抗作用を持つ薬がほとんどで、なかでも抗精神病薬が有名です。

気をつけなければならないのは、思わぬ薬にパーキンソニズムを起こす薬があることです。これを知らないと、漫然と処方され続けたり、薬剤性パーキンソニズムに対して抗パーキンソン病薬が処方されれば、薬の副作用を薬で抑えることになり、さらに別の副作用がでるということにもなりかねません(これは処方カスケードと呼ばれます)。

一般医がよく処方し、薬剤性パーキンソニズムの原因となりうる薬剤は、

制吐薬のプリンペランナウゼリンカルシウム拮抗薬のワソランヘルベッサー、抗ヒスタミン薬のアタラックスP、コリンエステラーゼ阻害薬のアリセプトなどです。

抗精神病薬の中では、せん妄時によく処方されるセレネースリスパダール、食欲がないときに処方されるドグマチール、悪心嘔吐時に処方されるノバミンが薬剤性パーキンソニズムを起こしやすいので注意が必要です。

上記の薬を処方している場合は、診察の度に、肘に筋固縮がでていないかをみることが重要です。

薬剤性パーキンソニズムの症状の特徴としては、以下があります。

進行が速い

突進現象は少ない

症状は左右差が少なく、対称性のことが多い(薬は全身に回るため)

姿勢時、動作時振戦が生じやすい(パーキンソン病は安静時振戦)

アカシジア(じっとしていられない)やジスキネジア(体が勝手に動いてしまう)を伴うことが多い

抗パーキンソン病薬は効きづらい

薬剤性パーキンソニズムが疑われる場合は、当然のことながら、原因と思われる薬剤の中止が必要です。

参考資料:重度副作用疾患別対応マニュアル(薬剤性パーキンソニズム) 厚生労働省 

(投稿者:斉藤 揚三)

ノベルジン錠について2018年08月29日 

最近、低亜鉛血症に対して、亜鉛製剤であるノベルジンという薬が処方できるようになっています。

当院では潜在的な亜鉛不足を積極的に疑い、問診をした上で、疑わしい場合には血中亜鉛濃度も測定しています。そうすると、亜鉛欠乏の方が少なからずいます。慢性肝疾患、糖尿病、腎不全、慢性炎症性腸疾患があると、亜鉛欠乏に陥りやすいと言われています。慢性炎症性腸疾患以外は、高齢者によくみられる疾患のため、当院でもよくみるのだと思います。単純に亜鉛の摂取不足という方もいるかと思います。

血清亜鉛値の正常値は80~130μg/dLで、60μg/dL未満であれば、亜鉛欠乏症と診断できます。また、ALP(アルカリフォスファターゼ)は活性中心に亜鉛を持つことから、ALPが低値であることも亜鉛欠乏症と診断する根拠となります。

亜鉛欠乏でよく目にする症状は、食欲不振、味覚障害、皮膚炎、口内炎などです。

低亜鉛血症があり、このような症状がある方に、亜鉛を補充すると、たちまち良くなる方もいます。

今までは、亜鉛を補充したい場合は、亜鉛含有胃潰瘍治療剤のプロマックDを処方するしかありませんでしたが(保険適応外ですが)、現在はノベルジンを処方できます。

しかし、ノベルジンの欠点として薬価が非常に高い(25mg錠で269.5円、50mg錠で422.3円)ことがあげられます。25mg錠を1日2錠処方するとしたら、1か月の薬価は16170円となります。この点を気にするのであれば、今までどおりプロマックDを処方するしかないでしょう。

ちなみに、プロマックD錠75mg 1日2錠処方すると、亜鉛含有量は約34mg/日、薬価は58円/日となります。

また、亜鉛が過剰になると、銅が欠乏するので、漫然と投与するのは勧められません。

(投稿者:斉藤 揚三)

施設への「訪問薬剤管理指導」について2018年06月19日 

「訪問薬剤管理指導」は、薬を届けてもらえるサービスと誤解されがちですが、それは業務の一つにすぎません。実際は、薬剤師が自宅に行って、飲み残しの薬ははないか、副作用はでていないかなどを確認し、問題があった場合には処方医に報告し、指導するのが主な仕事になります。また、夜間や休日などに急な調剤が必要になった場合の対応も含まれています。

ですから、認知症のある独居の方、あるいは老々介護で介護者もしっかりしていないなどで、服薬がしっかりできていないと思われる方、あるいは時間外の調剤が必要になりそうなくらい病状が安定していない方に「訪問薬剤管理指導」の指示をだすのはとても良いと思われます。

ちなみに、「訪問薬剤管理指導」というのは正確には「薬剤師による居宅療養管理指導」のことで、患者さんが介護認定されていれば、介護保険を使ってのサービスとなります。

さて、施設における「訪問薬剤管理指導」ですが、施設ではスタッフが服薬管理しているところがほとんです。そのため、薬を間違って内服したり、内服しなかったりすることはまず起こりません。さらに、当院ではこれまでに様々な薬局に「訪問薬剤管理指導」を依頼しましたが、ほとんどが薬を施設に届けるのが主のサービスになっています。患者さんに会わずに施設のスタッフに、患者さんの状態や残薬などを聞き、医師に報告しているケースもありました。

そういうわけで、施設においては「訪問薬剤管理指導」を入れる優先度は低いと言わざるを得ないのが現状です。

「施設のスタッフが薬をとりに行くのが大変なので訪問薬剤管理指導を入れる」というのは誤った考えなので取り上げてみました。

(投稿者:斉藤 揚三)

モーラステープによる光接触皮膚炎2018年05月10日 

夏井先生のホームページに、モーラステープ(ケトプロフェンを含有する湿布)によって光接触皮膚炎の副作用がでてしまった方のブログが紹介されていました。

光接触皮膚炎に関しては知っていましたが、湿布一枚でこんなにもなってしまうのかと驚きました。副作用出現後の初期対応も失敗だったと思います。

モーラステープは湿布の中でも有名で、患者さんから指定されることも多いです。

医師は気軽に湿布を処方していますが、光接触皮膚炎はいざ起きてしまうと悲惨な結果になってしまうことを認識しておかなければならないと思いました。

湿布を剥がしたとしても、薬剤が皮膚に残っていれば起きてしまうというのが光接触皮膚炎の怖いところです。実際、薬剤は1か月間くらいは残るようです。

対策としては、外に出ることが多いような活動性の高い人にはケトプロフェンを含有する湿布は処方しない、露出性の高い部分への使用を控える、などでしょうか。

ちなみに、同様の注意が必要な薬剤は他にもあります(外用薬に限らず内服薬にも!)。

(投稿者:斉藤 揚三)

緩和医療における嘔気時の対応2018年03月28日 

がん患者さんは様々な理由(化学療法、放射線治療、麻薬の副作用、腸閉塞など)で嘔気嘔吐が生じやすくなっています。

制吐剤として、一般的には、プリンペランやノバミンが使われることが多いです。

プリンペランやノバミンの注意点は、どちらもドパミン受容体拮抗薬なので、アカシジアを生じる恐れがあることです。

アカシジアとは、薬剤性パーキンソニズムの一症状で、落ち着かない、じっとしていられない、イライラする、不安感などの症状を言います。

当院でも、初診時にすでにノバミンが処方されていて、1日中家の中を歩き回っている症例を経験したことがあります。

その患者さんにノバミンを止めるなどの薬剤調節を行ったところ、すっかり落ち着いて生活ができるようになりました。

さて、当院では緩和医療における制吐剤に、ジプレキサを使うことが多いです。

ジプレキサは、セロトニン受容体、ドパミン受容体、ヒスタミン受容体、コリン受容体などを遮断する多次元受容体拮抗薬です。もちろんドパミン受容体も遮断するため、前述したアカシジアを生じる恐れもあります。

1日1回の投与で良い(半減期が33時間で作用時間が長い)ことと、OD錠(ジプレキサザイディス)が存在することが緩和医療で使う上での利点になります。また、食欲増進や体重増加の副作用がありますが、その点もがん患者さんには利点になります。

しかし、糖尿病の方には使えないことと、抗コリン作用もあるので、せん妄を生じる恐れがあることには注意が必要です。

処方例:ジプレキサザイディス2.5mg or 5mg 1錠 分1 就寝前

 (投稿者:斉藤 揚三)

フェントステープ×アブストラル舌下錠2018年03月13日 

オピオイド(麻薬)投与時には、痛みの増強や突出痛に備えて、追加(頓用)で使える鎮痛薬(速放製剤)を処方しておきます。

その薬のことを「レスキュー」と呼びます。

レスキューは定時で使用しているオピオイドど同じ種類のオピオイドとすることが一般的です。

当院では、定時でオキシコンチンを使っている場合は、レスキューはオキノームとし、フェントステープを使っている場合は、レスキューはアブストラル舌下錠としています。

レスキューの1回量は、1日量の1/6を目安とします。

例えば、オキシコンチン10mg/日を内服している場合、その1/6量の1.7mgがレスキューの目安になります(実際にはその量のオキノームはないため2.5mgを処方)。

しかし、この関係をフェントステープとアブストラル舌下錠に当てはめてはいけません(貼付薬は血中濃度の個人差が大きいことによります)。

そのため、フェントステープを何mg使用していても、レスキューのアブストラル舌下錠は100μgから開始します。

効果がない場合に100→200μgと増やしていき、至適用量を決定します。

前のブログでも書いたように、当院ではフェントステープをよく使っているので、アブストラル舌下錠もよく使います。

フェントステープとアブストラル舌下錠の組み合わせは、在宅緩和医療における最強の組み合わせではないかと考えています。

アブストラル舌下錠の最も良い点は、舌下錠の名のとおり、舌の裏で溶かして使用するので内服できない方でも使用できる点です。

逆に内服してしまうと効果は落ちてしまうので、その点は注意が必要です。

アブストラル舌下錠
効果発現時間:10分
最高血中濃度到達時間:30~60分
効果持続時間:1時間

(投稿者:斉藤 揚三)

フェントステープについて2018年03月07日 

フェントステープはフェンタニル(麻薬)の貼付薬であり、在宅医療の現場では非常に重宝します。

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癌患者さんで、内服できなくなったが痛みが出ている方、そろそろ内服できなくなりそうな方に導入することが多いです。

もちろん、モルヒネの持続皮下注射でもいいのですが、より気軽に導入することができます。

しかし、麻薬は麻薬ですので、注意が必要です。

貼付薬なので、湿布薬のように捉えられてしまい、他の人に渡してしまう、一度に何枚も貼ってしまう(実際に当院で経験しました)などが起こることもあります。また、実際にフェントステープ1mgを開封して貼ってもらうと分かるのですが、かなり小さく、高齢者が開封してしっかり貼ることは難しいと思われます。

そのため導入直後は連日の訪問診療や訪問看護で正しく貼られているかを確認するとより安全です。

日付と時間をテープに記載してもらう。使用済みのテープは粘着面を張り合わせてとっておいてもらうことも必要です。また、お風呂や電気毛布などで貼付部を温めるとより強く効果がでてしまうなどの注意点もあります。

フェントステープ1mgは経口モルヒネの30mgに相当しますので、初回投与量としては多すぎることがあります。フェントステープの欠点としては、一度貼ってしまったら、減量の調整ができないことです。さらに切ることも禁止されています。そのためより慎重に投与するために半面貼付という方法があります。これは先にフィルムを貼っておいて、その上に半分だけかかるように貼る方法ですが、この際、正確に半分にするために以下のように貼ります。

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このように、様々な注意点があるのですが、うまく使えればとてもいい薬ですので、当院ではよく処方しています。

(投稿者:斉藤 揚三)

リリカに関する告発について2017年11月15日 

m3.comのカンファレンス内にリリカに対する告発が載っていました。

非常に重要な告発だと感じたので全文を以下に添付します。

巨大な製薬メーカーを相手に、患者を守るために立ち向かおうとしている医師がいることはすごいことです。

自分自身、これまでたくさんリリカを処方してきましたが、今後は適応をよく考えて処方していきたいと思います。

また今後、学会などが新しい指針をだすのかどうか注視していきます。

私は現在、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の専門委員をやっています。リリカのPMDA新薬担当部署での承認のプロセス、それに次ぐ製薬メーカーのプロモーションのやり方が、PMDA内でも問題視されています。整形外科医療の現場で多くの適応外処方・患者被害が広がっています。私の患者にも、副作用のふらつきで骨折をした人、救急車で搬送されてきた人が数人います。まず、当局の審査・管理の下で、リリカの適応症である「神経障害性疼痛」に対しての適正化が必須です。内部告発の様な形になりますが、あまりに酷い前代未聞の状況なので、この場を借りて整形外科の先生方に周知します。

リリカが「神経障害性疼痛」の適応を得た経緯は、PMDAのwebsite内のインタビューフォーム(http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1190017F1029_1_02/の左下にリンク)に明記されています。要旨は、下記の2ステップによる三段論法です。

1) 当局PMDA審査部署による非学術的な言葉のすり替えによる適応拡大
リリカの臨床治験で効能が実証されているのは「帯状疱疹後神経痛」と「脊髄損傷後疼痛」の2疾患だけです。ところが上記審査部(整形外科以外の医師が中心です)は、それぞれを何の追加試験もしないで「末梢性神経障害性疼痛」と「中枢性神経障害性疼痛」という病名にすり替え、更にこの2つを纏めて、非常に曖昧で何とでも解釈できる「神経障害性疼痛」という病名へと適応拡大しました。
2) 製薬メーカーによる不公正な情報操作
製薬メーカーはリリカと言う薬剤名を出すことなく「疾患啓発」という形で、学会、講演会、公共メディアでは武田鉄也氏を起用して「すべての疼痛の中で『神経障害性疼痛』を占める割合は大きい」という学術的に根拠のないことを日本中に喧伝し、あたかもリリカが、整形外科一般疾患の疼痛(腰痛、坐骨神経痛、神経根症、そして関節痛、etc.)にも効能があるかのような情報操作を行って、現場の医師、保険審査員、更には患者さんの誤解を誘発しました。製薬メーカーのwebsiteの「疼痛.jp」(http://toutsu.jp/cm/)には、「神経障害性疼痛はさまざまな原因によって神経が異常な興奮をすることで起こる痛み。代表的なものは、坐骨神経痛、腰痛症、頸椎症」という不正確な情報が先日まで明記されていました。ところが、このサイトは最近になって何の説明もなく無責任にこっそりと削除されています(アクセスしてみてください)。

「神経障害性疼痛」という馴染みのない病名が適応症になっているのはリリカだけなので、上記の2つの三段論法によって医療現場に誤解が誘導されて、整形外科の多くの疾患に対してリリカが多量に処方され、莫大な国民医療費が充填されています。結果は、多くの整形外科の患者さんが、効能が実証されていない薬を飲まされ、副作用(めまい、傾眠、ふらつき)に苦しんでいる、という現状です。

内容をわかりやすくするために架空の例え話にすると下記と同様です。
1) 当局が学術的根拠もなく「糖尿病薬」を「生活習慣病」へと適応拡大した。
2) メーカーが「生活習慣病の代表的なものに高血圧がある」と情報操作した。
3) 誤解誘導された現場では、その糖尿病薬を高血圧の患者に多く処方した。
4) 血圧は下がらず、低血糖になる患者被害が拡大した。

もし、上記の架空話が現実に起これば、まず率先して循環器学会が抗議するでしょう。ところが今回のリリカの件は架空話ではなく、実際に整形外科の現場で起こっています。他科の医師たちによる当局審査部署と製薬メーカーの両者が学術的根拠もないままに推進したことによって、何の関与もしていない整形外科の多くの患者さんが被害を受けています。日本中の整形外科の患者さんを守る義務がある日本整形外科学会の姿勢が問われていると思います。

リリカは米国のファイザー社が開発した薬剤ですが、FDAでの適応症はあくまで学術的根拠に基づいており、鎮痛剤として認可しているのは「帯状疱疹後神経痛、脊髄損傷後疼痛、糖尿病性神経痛、線維筋痛症」だけです(https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2012/021446s028lbl.pdf)。また、ヨーロッパの審査当局(EMA)のリリカの添付文書にも、「末梢性神経障害性疼痛」として「糖尿病性神経障害と帯状疱疹後神経痛」、「中枢性神経障害性疼痛」として「脊髄損傷後疼痛」と明記されています(http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/EPAR_-_Summary_for_the_public/human/003880/WC500166174.pdf)。具体的な疾患名を出さないで「神経障害性疼痛」などと有耶無耶にしているのは日本のPMDAだけです。

しかしながら、米国においては、ファイザー社のプロモーションによる医療の現場での疼痛全般への適応外処方が従来より問題になっており、2009年にはアメリカ司法省の指示で、ファイザー社は和解賠償を行っています。ところが、その後もファイザー社は懲りることなく、国民に向けてのメディアを使ってのコマーシャルを続けて、適応症に関する誤解を誘発し、売り上げを着実に伸ばしています(2016年には2012年の倍以上に伸びています)。この経緯は、ごく最近のN Engl J Medの誌説(N Engl J Med 377:411,2017)において批判されるに至っています。ここで重要なのは、「米国における適応外処方・患者被害については、学術的根拠に基づいて適応認可を行ったFDAには責任なく、不公正なプロモーションを行ったファイザー社のみの責任。一方、日本においては、学術的根拠を逸脱した適応拡大を認めたPMDAと、それを巧妙に利用して不公正なプロモーションを行った製薬メーカーの両者の責任」ということです。

そもそも、「神経障害性疼痛」の定義・病態・疾患の特定が学術的に不可能であることは、ペイン科(日本ペインクリニック学会)自身が認めています。証拠としては、日本ペインクリニック学会が作った「神経障害性疼痛 薬物療法ガイドライン – 日本ペインクリニック学会」の初版(平成23年:https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/kaiin_guideline05.html)と改訂版(平成28年:https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0246/G0000896)の明らかな違いです。初版では、「神経障害性疼痛に包括される一般的な疾患・病態」を表2(P13)として明記してあります。出典は海外の2003年の英文論文(文献19)です(これもかなり怪しい論文ですが)。当然、この中には、腰痛も坐骨神経痛も関節痛も入っていません。ところが、改訂版では、初版にあった「神経障害性疼痛に包括される一般的な疾患・病態」は消えています。そのかわりに、「一般疾患の痛みの病態分類(神経障害性疼痛となりうる疾患一覧)」を表1(P22~23)に示しています。つまり、痛みのあるメジャーな疾患全てを単に羅列して、「この中にひょっとしたら神経障害性疼痛も入っているかも知れませんよ」という逃げのスタンスに変わっています。出典も初版と違って日本語の2013年の文献です(文献1)。すべての疼痛疾患の中に坐骨神経痛や腰痛症が入るのは当然で、これらを神経障害性疼痛に含める学術的根拠がないことを日本ペインクリニック学会が認めた、ということです。整形外科一般疾患に対するリリカの効能を否定する論文や批判する誌説が続出して、肯定する論文がゼロなのは当然の帰結でしょう。

私は、ここまで整形外科医療の現場を侮辱した悪質なケースを経験したのは初めてです。リリカの前例を意識したのかどうかは不明ですが、最近、リリカと類似の作用機序を持つ新たなα2δリガンドが、第一三共社から申請されていて、もうすぐPMDAでの承認審査が始まる、と聞いています。この新薬の第3相治験で効能が証明されているのは、「帯状疱疹後神経痛」と「糖尿病性疼痛」だけです。当然、この2つでの申請・承認が公正と考えます。しかしながら、リリカの「神経障害性疼痛」の前例が残ったままだと、この新薬も学術的根拠のないままに「神経障害性疼痛」の適応にすり替えられる可能性は否定できません。第二のリリカが整形外科の現場に登場し、適応外処方、患者被害、そして「薬害」が拡大することに強い懸念を覚えます。

以上より、リリカは「帯状疱疹後神経痛」と「脊髄損傷後疼痛」にしか効能が実証されていません。ところが現実には、その効能が学術的に立証されていないどころか、否定されている一般整形外科疾患の多くの患者さんに処方されています。関係者は、患者さんやその支持団体、更には納税者である国民から、背任罪の提訴、薬害訴訟を受けても逃れられない、前代未聞の事態であると思料します。関係者とは、製薬メーカーだけではなく、PMDA、保険審査員、そして私を含む不勉強な現場の整形外科医を指します。

日本には、運動器の基礎研究に従事している整形外科医や医学研究者が大勢おられます。彼らの殆どは、その成果が将来、臨床に還元されて患者さんの福音となることを目標・拠り所として昼夜を惜しんで研究を続けています。画期的な新薬は、彼らの莫大な労力、果てしなく続くワインディングロードの末に生まれることは言を俟ちません。しかしながら、その確率は限りなく低く、殆どの研究者の汗の結晶は患者さんの手に届くことなく、水泡として消えてしまいます。その一方で、学術的根拠もないまま、巧妙で狡猾なプロセスを経て、広く患者さんに届いているリリカのような薬剤が存在しています。

長文になりましたが、以下がまとめです。
1) リリカの効能が学術的に証明されているのは、「帯状疱疹後神経痛、脊髄損傷後疼痛、線維筋痛症」だけです。PMDAでの「帯状疱疹後神経痛、脊髄損傷後疼痛」から「神経障害性疼痛」への適応拡大の学術的根拠は皆無です。
2) リリカがPMDAにおいて「神経障害性疼痛」を効能・効果として適応症が拡大承認された2013年2月以降に、脊椎神経根性疼痛(2015/1/20)、坐骨神経痛(2017/3/23)、腰痛症(2017/6/6)に対するリリカの鎮痛作用を否定する、学術的に高レベルの臨床試験が報告されました。一方、リリカがこれら整形外科一般疾患の疼痛に有効であることを示した報告は皆無です。
3) このような学術的事実を無視して、製薬メーカーは、「神経障害性疼痛」には、整形外科一般疾患の疼痛をはじめとする多くの疼痛が含まれる、という情報操作を医療関係者や患者さんに対して行なっています。「神経障害性疼痛」の適応症を取得している薬剤はリリカしかないため、上記の情報は、「リリカが整形外科一般疾患の疼痛に効能がある」と現場の医師や保険審査員に受け取られて当然です。
4) 結果として、国内の整形外科疾患の多くの患者さんが効能が実証されていない薬を飲まされ続けて、副作用に苦しんでいます。また、国民医療費が効果のない治療費用に充填されています。
5) 最近、新たなα2δリガンドが申請されており、リリカの前例が残存したままだと、国民の医療被害が更に拡大することが懸念されます。

多くの整形外科の患者さんが長年に渡って効能が実証されていない薬を飲まされ続けて、副作用に苦しんでいます。国民の血税は、その根拠のない医療に注ぎ込まれています。これが日本の整形外科医療の現状であると言われると、我々現場の医師にも反省し改善しなければならない部分もあると思います。しかしながら、整形外科医の与り知らないところで起こってしまった今回のリリカの隆盛は、学術的根拠に基づくフェアな医療、それに真摯に携わっている研究者・臨床医の信義を根本から否定・愚弄するものであり、到底、看過できるものではないと考えます。製薬メーカーも、当局も、そして我々医師も、公正な学術的根拠に基づいて患者さんに対峙していく矜持を忘れるべきではないことを、強く主張したいと思います。まずは当局における、リリカの適応症を、曖昧な「神経障害性疼痛、線維筋痛症」から、あくまで学術的根拠に基づいて具体的な「帯状疱疹後神経痛、脊髄損傷後疼痛、線維筋痛症」への変更が必須です。

川口 浩 2017/11/05

抗コリン作用のある薬2017年10月20日 

抗コリン薬は副交感神経を抑制するために、以下のような多彩な副作用があります。

腹部膨満・便秘(腸管の動きが悪くなるため)、口渇、ふらつき、眠気、せん妄、視野障害、眼圧上昇、尿閉、高血圧、動悸など

そのため、抗コリン薬のブスコパンは、前立腺肥大症や緑内障の患者さんに禁忌なのは有名です。

注意しなければならないのは、抗コリン作用のある薬です。

抗コリン作用のある薬は数多くあります。上述した副作用が生じる恐れがあるため、抗コリン作用のある薬を処方していることを自覚しておかなければなりません(よく処方されるものを右に書いておきます)。

抗ヒスタミン薬(を含有する総合感冒薬、鼻炎薬)…アタラックス、ポララミン、PL顆粒

抗精神病薬…コントミン、セレネース

抗うつ薬(特に三環系)…トフラニール、トリプタノール

ベンゾジアゼピン系…セルシン、デパス、レンドルミン

抗不整脈薬…リスモダン、シベノール

過活動膀胱治療薬…ベシケア、ステーブラ、バップフォー

吸入抗コリン薬…スピリーバ

高齢者が風邪薬を飲んで、傾眠がちになったり、尿がでなくなったり、おかしな行動をとったりするのも全て抗コリン作用によるものです。

また、こういった薬を長期で使用していると認知機能が低下するとも言われているので、できるだけ短期の処方にとどめるべきだと思います。

(投稿者:斉藤 揚三)

 

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