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創傷治療

傷のきれいな治し方2018年10月02日 

H30.9.29に行われた第16回宮城手の外科セミナーに参加してきました。

1日かけてみっちり手の外科を勉強しました。どの先生の講演も大変勉強になり、刺激を受けました。特に印象に残ったのは、日本医科大学形成外科教授 小川令先生の創傷・瘢痕治療の講演でした。物理的な力によって細胞が影響をうけるメカノバイオロジーという概念を、臨床に応用した点がとても革新的です。外科系の医師であれば、ぜひとも受けておきたい講演です。

以前のブログで小川先生の日整会の教育研修講演をまとめましたが、今回の講演もまとめてみます。

『手外科における創傷・瘢痕治療の最新理論と実践』

肥厚性瘢痕・ケロイドの原因は皮膚の真皮の深いところ、真皮網状層で続く慢性炎症で、皮膚が引っ張られることで、傷に物理的な力がかかっているところに起こる。皮膚がよく動く、胸部、肩、腹部はケロイドの好発部位となる。一方、皮膚が動かない、頭頂部、前脛骨部、皮膚がゆるい上眼瞼はケロイドができにくい部位である。整形外科は関節という動く場所を切るので常にケロイドのリスクがある。また、早期リハビリで炎症が続いてしまうこともリスクとなる。

このケロイドの発生の仕組みを逆手に取ったのが陰圧閉鎖療法。陰圧閉鎖療法は、湿潤療法と過量の浸出液を吸収する以外に、創面に加わる物理的な刺激で活動性が上がることで早く治るのではないかと考えられる。

高血圧がある、若い女性(ホルモンの関係)、体に目立つ傷痕がある方はケロイドのリスクが高く特に注意する。

手術部位感染(SSI)、肥厚性瘢痕・ケロイドの予防するためには傷にかかる力を最小限にすればよい。

 ①皮膚表面、真皮に過剰な力がかからないように縫合する

肥厚性瘢痕・ケロイドは真皮の網状層から発生するので、表皮を減張するのではなく、真皮の網状層を減張するようにしなければならない。そのためには、深いところをしっかり縫い(深筋膜は0PDS、浅筋膜は2-0,3-0PDSで縫合)、真皮縫合をしなくても創縁が勝手に密着する状況を作ることが大切。真皮縫合で寄せたらダメ。その後、軽く創面を合わせるように、4-0,5-0PDSで真皮縫合、5-0,6-0ナイロンで表面縫合をする。

膜構造は横方向の血流で強く縫っても壊死しないが、脂肪層は縦方向の血流で縫うと簡単に壊死する。膜構造を意識して縫合することが大事。

②切開の向きを考える

切開の向きは皮膚の動きと直交するようにすればよい。方向を変えられない場合は力の分散を考え、Z型に切開し、傷にかかる力を分散する。

腹部 腹直筋は上下の動きなので、横切開が良い。帝王切開は横切開なので理にかなっている。

胸部 大胸筋で横方向に引っ張られるので縦の切開が良い。胸部正中切開はケロイドのリスクが少ない。

膝 関節は上下に動くので横切開がよい。縦切開の場合は1か所でいいからZ切開とする。

顔 RSTL(Relaxed Skin Tension Line) 、皺に沿った切開をする。皺は引っ張られる方向と直交する線。

前腕 回内・回外の動きを考え「雑巾絞りの法則」に沿った、斜めの切開が良い。手関節を屈曲尺屈すると斜めの皺が見えるので皺のラインで切開する。

③十分なテープ固定

術後や外傷後、1週間程度で表面は治っても、真皮は3か月経過して80%治る。創を安静に保ち肥厚性瘢痕・ケロイドを予防するため、テープ固定は3~6ヶ月間行うことが勧められる。

傷にテープを張る向きは、傷が開かないように貼るのではなく、皮膚が引っ張られる方向に貼ると良い。例えば、腹部は縦に切っても縦に貼る。胸は横に貼る。膝は縦切開でも縦に貼る。

しかしテープの貼る向きをいちいち考えるのは大変なので、360°動かない1枚の大きなテープで貼ってしまえばよい。

テープの種類
アトファイン®(ニチバン)700円 かぶれにくく使いやすい
シリコーンジェルシート 4000円 高いのが欠点
ポリエチレンジェルシート(傷あとケアシート®)2000円 洗って何回も使える
シリコーンテープ 3000円 1番良い かぶれない
サージカルテープ 250円 いい点は軟膏もクリームも浸透するのでテープをはがさず、テープの上から軟膏やクリームを塗ることができる

④早期から副腎皮質ホルモンのテープ剤を用いる

肥厚性瘢痕・ケロイドが生じたらすぐにステロイドのテープを使用する。炎症をとるために皮膚の表面からステロイドを投与する感覚。リハビリをしながらでも使える。

現在使えるテープは2種類。
ドレニゾンテープは弱いステロイドでかぶれやすい。小児に使う。
エクラープラスターはストロングで効果が高い。テープによる接触性皮膚炎も抑えてしまう。大人で関節など力がかかるところは全てエクラープラスターにしているとのこと。

⑤適切な縫合糸を使用する

術後2年以降に起こる晩期感染は、体調を崩した時に細菌が血中を回って縫合糸についてしまうことで起こる。できるだけ異物は体に残したくないので、吸収糸を使う。縫いづらくても、バイクリルよりPDS(3か月間張力を維持する)を選ぶと良い。抗菌薬でコーティングされた糸を使うことも考慮する。

(投稿者:斉藤 揚三)

傷口にラップっていいの?の記事について2018年09月07日 

【傷口にラップっていいの? 熱傷・褥瘡、専門家の見解は】

この記事の中で、日本熱傷学会は傷口にラップは「絶対に使ってはならない」、日本褥創学会は「やむ得ない場合は考慮してもよい」との見解を出しています。

では、実際に傷口にラップを使っていいのかについて私見を書いていきます。

まずは傷が治る仕組みから解説します。

怪我や火傷をして傷ができると、傷から浸出液がでてきます。

この浸出液は、傷を治す培養液のようなものだと思ってください。

この浸出液をうまく利用して、傷を湿った状態にして傷を早く治す治療法が、湿潤療法と呼ばれています。湿潤療法は、夏井睦先生が2001年にホームページ上で提唱した治療法で、消毒とガーゼの撲滅をうたっており、現在では広く一般にも知られています。

傷にガーゼを当てることがなぜいけないのかというと、ガーゼが浸出液(=傷を治す培養液)を吸収してしまうからです。また、ガーゼと傷がくっついてしまい、カーゼを剥がす度に出血し痛みがでます。

さて、傷に食品用のラップを当てるとどうなるかというと、傷は浸出液で湿った環境となり傷の治癒にはいい環境となります。また、ラップはガーゼと違って傷にくっつくこともありません。

しかし、ラップの欠点は、浸出液を一切吸収しないため、蒸れてくることです。

蒸れると、健常な皮膚がふやけてしまったり、細菌が繁殖する温床になり、感染の原因となります。

感染というのは、ラップが医療用ではなく汚いから起こるのではなく、浸出液が留まるから起こるのです。

つまり、浸出液を適度に吸収することができれば感染は起こらないはずです。

現在使用できる創傷被覆材には、様々な種類がありますが、基本的に傷を湿潤環境に保ちながら、浸出液を吸収するという点ではどれも同じです。創傷被覆材の種類によって、浸出液の吸収力に差があるため、傷によって使い分けるのです。

まとめると、ラップは浸出液を一切吸収しないため、傷口に積極的にラップを使用する理由はありません。しかしラップは手に入りやすいので、創傷被覆材がない時に、応急処置として短時間使用することはできます。

ラップだけを使って治すのであれば、浸出液のコントロールが重要になってきます。こまめにラップを取り換えて浸出液を拭いたり、ラップに小さい穴を多くあけて、その上からガーゼやオムツなどを当てて浸出液を吸収するなどといった手間が必要です。

 (投稿者:斉藤 揚三)

足趾蜂窩織炎の症例2018年05月28日 

右第一趾の爪が近位方向に伸び、それが皮膚に刺さり蜂窩織炎を起こしたという珍しい症例を経験しました。

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爪白癬と思われますが、これほどの厚さの爪は、通常の爪切りやニッパーでは切ることができません。このような爪には工業用のニッパーを使うといいです。注意点としては、切る際に爪にかなりの力がかかり爪が剥がれそうになるので、爪甲をしっかり押さえながら切ることです。
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工業用のニッパーで刺さっている爪を切りました。爪を切る際に、刺さっている皮膚が刺激され痛みがでたので、麻酔(指ブロック)もしました。

寝たきりの方であれば抜爪してもよかったと思いますが、歩いている方だったので、爪は残しました。そして、ケフラールカプセルを7日分処方しました。

11日後の写真が以下になります。炎症は完全に治まりました。

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 (投稿者:斉藤 揚三)

擦過傷は存在しない2018年01月22日 

創傷:創傷(そうしょう、: trauma, wounds, burns)は、外的、内的要因によって起こる体表組織の物理的な損傷を指す。(そう)と(しょう)という異なるタイプの損傷をまとめて指す総称である。日常語では(きず)と呼ばれる。 ーwikipediaよりー

医学的には「創(そう)」とは開放性損傷を意味し,「傷(しょう)」とは非開放性損傷を意味します。簡単に言えば、皮膚にキズがある損傷を「創(そう)」といい、皮膚にキズがない損傷を「傷(しょう)」といいます。

例を上げれば、打撲による損傷の場合、皮膚にキズがないため、「打撲傷(だぼくしょう)」と言います。また皮膚を刃物で切った場合、皮膚にキズがあるので「切創(せっそう)」と言います。

この定義をすりむきキズに当てはめるならば、すりむきキズは皮膚にキズがあるので「擦過創(さっかそう)」となります。

皮膚にキズがないすりむきキズはありえないので「擦過傷(さっかしょう)」は存在しません。

擦過傷という言葉はよく耳にしますが、上記の定義を当てはめると間違えであることが分かります。

(投稿者:斉藤 揚三)

脱保湿2017年10月16日 

訪問診療で診ている95歳の患者さんで、両下肢に皮膚炎が起きている方がいました。

ワセリン塗布を続けていましたが、3か月以上も治らない状態が続いていました。

どうすれば良くなるかを考えていたところ、アトピー性皮膚炎に対する、脱保湿・脱ステロイドで有名な藤澤重樹先生のホームページfacebookの記事を思いだしました。

そして、

①当症例は、ワセリンによる接触性皮膚炎の可能性があるのではないか?

皮膚をよく乾燥させた環境におくことにより、個々の表皮細胞は湿潤環境に比して有意にコルチゾール産生が増加するという論文があり、試してみる価値がありそうだ

と考え、ワセリンを止め、なにもしないで経過をみることにしました。

すると、驚くことに、すっかり良くなってしまいました。
左が4か月前の写真。右が現在の写真。
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ワセリンや軟膏を塗っても改善しない方には、思い切ってなにもしないという選択肢もあるのではないかと思います。

(投稿者:斉藤 揚三)

高齢者の表皮剥離創の治療について2017年08月16日 

高齢者の皮膚は非常に脆く、ちょっとしたことで表皮剥離や内出血が起こります。

在宅医療をしていると、縫合が必要な傷というのはほとんどなく、ほとんどがテープ固定で対応できます。

症例 87歳 女性

入所中の施設の外で転倒し、左前腕の表皮剥離創を受傷しました。
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外での怪我であっため、創内に砂が混入していました。水道水で中の砂を可及的に除去。
そして、皮膚をできるだけ元の位置に戻しました。
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ステリストリップを貼り、その上に大きめの絆創膏でドレッシングしました。絆創膏はよごれたら交換で良いです。
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受傷2週間後の状態です↓皮膚は生着しほとんど治っています。念のためフィルム保護としました。
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受傷5週間後の状態です↓ほとんど痕はありません。
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消毒やガーゼなどは一切不要です。
受傷から時間がたってしまうと、皮膚を元の位置に戻せないことがあるので、できるだけ早い処置が望ましいです。
皮膚を戻さなくても、湿潤療法をしていればいずれ治りますが、時間はかかりますので、できるだけ受傷後に皮膚を元の位置に戻すのがポイントです。
抗生剤の内服も不要です。

(投稿者:斉藤 揚三)

第90回 日本整形外科学会学術集会に参加してきました2017年05月21日 

5/18~5/21 仙台で行われた、第90回 日本整形外科学会学術集会に参加してきました。
4日間開催されていましたが、仕事の都合上、土日の2日間参加してきました。
参加したどの講演も素晴らしい内容で、明日からの診療に生かせそうです。
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なかでも、「目立たない傷あとにするベストプラクティス 小川 令 先生」という講演がとても勉強になりました。以下に重要点を列挙しておきます。

・ケロイド、肥厚性瘢痕は張力がかかり、動く部位(前胸部、肩~上腕、恥骨部)にできやすい(体質だけではない)。逆に、頭頂部、上眼瞼、前脛骨部は動かないためできにくい。

・ケロイドは真皮網状層からできる。真皮にかかる張力を減らすようにするため、筋膜縫合のみで創縁が盛り上がり、自然によるように縫合する。膜構造を認識して縫合する。深筋膜は0号、浅筋膜は2-0,3-0で縫合する。

・皮膚切開は引っ張られる方向と逆にするときれいに治る。前胸部は縦(大胸筋は左右の張力を生じる)、腹部は横(腹直筋は上下の張力を生じる)、背中は縦、腰は横、膝は横、肩甲部は縦、前腕は斜め(回内・回外を考え)、手首は横。方向を変えられない場所は張力の分散を考える→Z形成術。

・縫合後に貼るテープは傷に直行して貼るのではなく、力のかかる方向に貼る。それが難しければ①縦にも横にも伸びない大きい1枚のテープを貼る②格子状に貼る。真皮の癒合期間は3か月で90%ということで、テープは少なくとも3か月は貼る。

・ケロイドができ始めたらすぐに、ステロイドテープを貼る。1回/1~2日張り替える。風呂ではがす。

・術後2年以降に起こるのが晩期感染。体調を崩したときに免疫力が低下し起こる。そのため、縫合糸はなるべく吸収糸にする(抗菌剤でコーティングされているものがなおよい)。深いところの縫合はPDS(3か月でとける)がよい。バイクリルは1か月でとける。

他の講演も余裕があれば今後、載せるかもしれません。

(投稿者:斉藤 揚三)

練馬光が丘病院「傷の治療センター」を見学してきました2017年04月04日 

以前から行きたいと思っていた、練馬光が丘病院「傷の治療センター」の夏井睦先生の外来を見学してきました。ここで行われている治療は「湿潤療法」という方法で、傷に対する消毒をせず、ガーゼも使わないというものです。私が医師になったころは常識とされていた「傷に対する消毒とガーゼ」を「百害あって一利なし」と切り捨て、傷を「痛くなく、早く、きれいに」治す治療法(湿潤療法)を確立したのが夏井先生なのです。

私は医者になったばかりの研修医のころにこの理論に触れ、その非の打ち所のなさに脱帽し、研修医のくせに指導医のやり方を踏襲せずに湿潤療法を実践することにしました。それから現在に至るまで患者さんに対してはもちろんのこと、自分や家族、ペットのケガにまで実践してきましたが、本当に「痛くなく、早く、きれいに」治るのです。

今回、意を決して外来見学に行ってきましたが、夏井先生の患者さんとの軽快なトークは漫才でも見に来たかのようで、笑っているうちに傷の処置が終わっているような、まさに「流れるような」診療風景でした。また夏井先生の指示のもと傷を処置する看護師さんの手際は、マジックショーでも見ているかのようでした。「漫才」と「マジックショー」を同時に見て驚愕しているうちに見学時間があっという間に過ぎてしまいました。

当院では主に褥瘡(とこずれ)の治療に湿潤療法を応用し、すでに素晴らしい治療成績を上げているのですが、さらに改良するヒントをいろいろと得てきました。

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(投稿者:斉藤 群大)

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