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大腿骨近位部骨折の手術に対する整形外科医のジレンマ

2019年02月12日 

大腿骨近位部骨折は高齢者によく起こる骨折の一つですが、高齢化に伴って、大腿骨近位部骨折を起こす方の人数も年々増えてきています(2012年約18万例)。

大腿骨近位部骨折は、手術をしないと歩行ができず、多くが寝たきり状態になってしまうので、手術をすることが原則です。手術自体は、整形外科の手術の中では「簡単」といわれている部類に入ります。

手術は簡単であっても、高齢者は疾病を多く持っている方が多いので、麻酔や手術に全身が耐えられるのかどうかの判断をしなければなりません。

整形外科医自ら麻酔をかける病院もあるとは思いますが、多くの病院では麻酔は麻酔科に依頼されます。

しかし、麻酔科から「麻酔をかけるのは危険だ」と判断されれば、手術はできません。

麻酔が危険だと判断される背景には、患者の全身状態や術後合併症が出現した際に対応ができるのかどうかなども考慮されていると思います。しかし、麻酔がかけられるのか、かけられないかの基準は病院や麻酔科によっても異なり、非常にあいまいなものです。

「麻酔がかけられない=手術ができない」とどうなるかと言うと、保存治療ということになり、そのまま放置されることになります。

そうなると、ほとんどの方が寝たきりになります。保存治療は手術治療と比べ1年後の死亡率が4倍になるという報告もあります。

このようなデータをみると、手術にリスクがある方でも、(死亡する可能性も了解してもらえれば)リスクを覚悟で手術をするという選択肢もあると思います。「座して死を待つよりも、出て活路を見いださん」というわけです。

しかし、いくら患者の家族と整形外科医のなかで合意が得られていたとしても、麻酔科から麻酔をかけられないと言われたら手術はできないのです。

また、手術はできるだけ早く行うのが理想です。手術は24時間(できれば48時間)以内に行うと良いのです。3日以降の手術と比較して、早期の手術で死亡率が低下したという報告もあります。

整形外科の視点から言えば、待機してから手術を行うメリットは何一つありません(術前に内科的合併症の治療をする場合を除く)。手術が遅くなれば、それだけリハビリが遅れ、1日寝ているだけで筋力は1~3%低下します。寝ていれば、深部静脈血栓症や誤嚥性肺炎、褥瘡のリスクも上がります。

しかし、骨折は命に関わらないと思われていますし、早期にリハビリを行うことの意義も、整形外科医以外や一般の方は分からないので、骨折を早く手術した方がいいとは認識されていません。

確かに骨折が直接命に関わることはあまりありませんが、大腿骨近位部骨折の1年後の死亡率は約10%です。間接的には命に関わっているのです。

早期に手術ができる体制になっている病院は稀です。手術枠にも限りがあり、日本では、手術までに長い期間待機しているのが現状です。

整形外科医は手っ取り早く手術をしてしまいたいのです。病院の体制の問題だったり、麻酔科から麻酔を拒否されたり、早期手術のメリットが認識がされていないなどで、手術ができないだけなのです。

手術自体は簡単ですが、手術のマネジメントだったり、合併症の治療に頭を悩ませているのが整形外科医なのです。

まとめると、

・大腿骨近位部骨折は高齢者によく起こる骨折。高齢になればなるほど疾病を多く抱えているため、整形外科医は、手術よりも合併症の管理が大変になっている。

・麻酔科から麻酔を拒否されれば手術ができない。そしてその基準が不明確。手術をしないと、寝たきりになり、手術した群と比べ1年後の死亡率は4倍になるなど、不利益が大きい。

・手術はできるだけ早く(24~48時間以内)行った方がいいが、骨折は命に関わらないとのことで後回しにされたり、手術枠の関係などがあり、日本では不必要に待機されることが多い。

解決策があるとすれば、地域に一カ所、骨折患者を集めて治療をする外傷センターを作り、整形外科医が手術だけに集中できる環境を作ることですが、国の方針としてそうはなっていません。

いろいろな制限がある中で、地域の整形外科医は使える医療資源で何とか奮闘しているというのが現状なのです。

(投稿者:斉藤 揚三)

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